沢木さんの「名探偵コナンキャラランキング」

私のココロからの声...かも知れない

刑務所に入って３０年の歳月が過ぎ、いよいよ自由が再び訪れようとしている。
ムショの中なのでワインは無理だが、神様はわたしに笑えないいたずらを仕掛けてくれたらしい――人生が終わったと思っていたわたしの味覚障害が、少しずつだが、確かに回復してきているんだ。
それに気づいたときは大喜びだった。それから２週間、わたしは毎日のように個室の壁に向かって、体に沁み込んでいたあの作法――グラスを上げて色や透明度などを観察、軽く回してから香りを嗅ぎ、最後は少しだけ口に含んで味見することを、何度も何度も繰り返していた。
しかしよく考えてみれば、絶望の最中だったとはいえ、大事に保管していたワインを叩き割ったわたしでは、昔の信念を貫くことはもはや許されないのだろう。出所した後は、やっぱり当初の予定通り山梨県の故郷に戻るとしよう。それからそこで自分の経歴・経験などを本にまとめて、皆にはワインについての正しい知識を伝えよう。あのインチキなフードライターたちは、いまだに許してないからな。
そう、いつまでたってもわたしはわたしだ。ソムリエであることを誇りに、信仰に、人生のすべてにするパラノイアである。あの時トランプの数字順に犯行を起していたのも、村上に罪を着せるためだけじゃなく、儀式美への、心からの追求でもあるのだ。たとえ犯罪においても、わたしは芸術的な手を取らないと我慢ならないのだ……そのような美学に浸っていると、たとえ無実な人間でも、人間ではなく、芸術を完成するための道具にしか見えなくなるのだ。
わたしを滅ぼしたのは、結局そのような執着だったのかもしれないがな。