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正しさとはなんなのか考えさせられる
不倫を題とした愛憎劇。不倫相手の男はとても魅力的とはいえない。しかし、逢瀬のたびにいきいきとしたり、しおらしくしたりしてみせるヒロインを見ると、最初は「なぜこんな男に…」と思っていたはずが、ラストには本当の愛はここにあるんじゃないか、とさえ思えてくる。
好きな気持ちを堪えて別れを切り出し、居た堪れず手紙を出してしまうラストに「感情を無視した正しさ」の中で生きる女の物悲しさがある。
借金の申し込み
借金をしようとする人間は手紙の中で、まず自分の非礼を詫びる。そこから自分の首が回らないこと、他者の情けを受けられないこと、努力の度合いや喫緊度を痛切に語る。
しかし受け取る側は三者三様で、同情したり、激昂したり、笑いとばしたりする。お金を借りるという行為にはわかりやすく両者を照らす作用があって、ちっぽけで、とても面白い。
私もお金を貸したり借りたりする度この手紙を思い出し、相手をよく見るようになった。
正しい女の鎧を脱ぎ、生身の自分を愛す
「知性の性質は、ほかのいろんな人間の能力と同様に、抵抗を求める」という文章がある。自らの知性や教養が本物なら、いつかは自分より知性の劣る相手に尊敬されているだけでは物足りなくなる。恋愛関係には相手を思いやれる気持ちが必須だが、その相手にとって足る人物であるためには相手より抜きん出た一面が必要になる。
尊敬し合える関係を築くことって相当ハードルが高い。
かわいい三島由紀夫
時代背景もあろうが、難しい熟語で埋め尽くされたこの小説は三島由紀夫が15歳の頃に描いたものである。めいっぱいの背伸びを感じる文章でありながら、中身は純愛である。
純粋な感性と陰鬱な時代のコントラストに三島由紀夫のあぶらぎった青春を感じて、三島由紀夫を1人の人間として好きになる、三島オタク向けの小説。
東大を動物園にしろ、は一読の価値あり
東大を動物園にしろ、の章に「新宿騒乱を見に行って」という文章がある。ここには、大衆を組織化させず単独行動で行われるテロは簡単だ、という文章があった。
最近は個性を重要視する流れがあって、人と違うことを表現することが価値であるような風潮があるが、求心力が生まれなければ本当の革命になり得ない。他人に行動を起こさせる力を持った時初めてそれは革命になる。私が創作活動を続ける中で目標にすべきはテロではなくて革命なのだと気付かされた一文だった。