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とはいえ、死んでしまった彼女を生き返らせる為に反則スレスレのとんでもない大技を駆使する『スーパーマン』(1978)や、美女と野獣を地で行く『キング・コング』(2005)が大恋愛映画だったことを思い出せば、やっぱり映画にはいつも〈恋愛映画〉の要素がつきまとうようです。
そんなことを言うのも、私が恋愛映画と呼ばれるものが苦手――もっと詳しく言えば、描写の足りない部分を観客自身の思い出補正に頼り切った恋愛映画が苦手なのです。
だから、というわけでもないのですが、今回私が選んだのは、一見すると恋愛映画とは思われない作品を中心に選びました。人によっては、この3本をサスペンスドラマ、ミステリ、青春映画とカテゴライズするかもしれません。しかし、少し見方を変えれば、極上の恋愛映画としても観ることができるはずです。共感するためではなく、自分が絶対に体験したことがない世界へと誘ってくれる恋愛映画として挙げた3本です。
ランキング結果
さり気なく描かれるオトナの淡い恋
これまで70年以上にわたって名探偵・金田一耕助は様々な俳優たちが演じてきました。各時代のスターや個性派俳優が演じた歴代の金田一を並べるだけでも、優に30人近くになります。最近では加藤シゲアキが金田一役に挑んでいましたが、昨年末に放送された最新作『悪魔の手毬唄』は、実に8度目の映像化でした。
歴代の『悪魔の手毬唄』のベスト――というより映像化された金田一耕助もののベストワンに挙げられることが多いのが、石坂浩二が金田一を演じた『悪魔の手毬唄』(1977)です。
山に囲まれた岡山の寒村に古くから伝わる手毬唄の歌詞に沿って起きる奇妙な連続殺人事件。亀の湯の女将・青地リカの夫が殺された20年前の忌まわしい事件との関係も解き明かしながら、金田一と相棒の磯川警部が謎を追う物語は、ミステリーの枠を越えて親子の愛情物語にまで広がりを見せます。
血しぶきが画面いっぱいに飛び散る強烈なショック・シーンと、叙情的なシーンが重なりあうばかりでなく、ユーモアも絶妙に配置されており、名匠市川崑監督ならではの変幻自在なテクニックが駆使されています。
さて、この映画のどこが恋愛映画なのかと思われるかもしれませんが、初老の磯川警部が密かに思いを寄せる青地リカとのオトナの淡い恋が、全編を通じてさり気なく描かれているのです。2人が久々に再会したときの表情や、ふとした瞬間、2人きりになった時にこみ上げてくる嬉しさと恥ずかしさがあふれるやり取りにはたまらないものがあります。
磯川警部は若山富三郎、青地リカに岸恵子。名優2人が見せる味わい深い演技は、この年齢とキャリアだからこそと思わせる品格が漂い、いつまでも観ていたいと思わせてくれます。
ラストシーンで「磯川さん、あなたリカさんを愛してらしたんですね?」と金田一が尋ねたとき、磯川警部はどう答えるのか? 画面を穴があくほど眺めてみると答えが見つかるかもしれません。
3位東京の恋人
公式動画: Youtube
制作年 | 2019年 |
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上映時間 | 81分 |
監督 | 下社敦郎 |
メインキャスト | 森岡龍、川上奈々美、吉岡睦雄、階戸瑠李、木村知貴ほか |
主題歌・挿入歌 | - |
公式サイト | https://tokyo-modernlovers.com/ |
青春と恋愛の挽歌
数えるばかりの過去の恋愛を思い出すと、恥ずかしさの方が先立つのですが、『東京の恋人』は過去の恋愛を引きずっている人も、完全消去した人にもオススメしたい青春と恋愛の挽歌が描かれています。
学生の頃は東京で映画監督を目指していた立夫(森岡龍)は、今はもう夢をあきらめて妻の実家の生業を手伝っています。学生時代の元カノ満里奈(川上奈々美)から久々に連絡が来たことから東京で再会し、つかの間の恋人気分でバカンスに――。心地よい夏の風が吹き抜ける東京から彼女の運転する車で海へと向かい、やがて互いに身体を求めあいながらも直ぐに訪れる別れが青春の本当の終わりを実感させることになります。
ありがちと言えばありがちなストーリーですが、いつまでも観ていたいと思わずにはいられないほど、元カップルが過ごす穏やかな時間に浸っていたくなります。それだけに後半に行くにしたがって寂しさを感じずにはいられません。
川上奈々美の力を抜いた存在感が実に魅力的です。この映画を観ると、男女を問わず彼女が好きになってしまうと断言してもいいでしょう。セックスシーンでは、彼女はそっちのプロでもありますから、フツーの映画よりも激しいものになっていますが、〈AVと映画〉の重なり合う部分と違いを熟知し、俳優としての才能も兼ね備えた彼女にしかできない絶妙のバランスで“愛欲”を表現しています。
そして、この映画では東京60WATTSの音楽が印象深く響きます。喪服を着た川上奈々美が屋上の長椅子に横たわるシーンで流れる『ふわふわ』、海へ向かう車の中でかかる『外は寒いから』。何年か経ってこの映画の記憶が薄れたとしても、この曲を聴けば幾つかの忘れがたい場面が甦ってくるのではないでしょうか。映画と音楽が一体化する幸福を味わうことができる1本です。
歴史の闇と夫婦の愛が交錯するサスペンス・メロドラマ
この秋、とっておきの恋愛映画と言えるのが、高橋一生と蒼井優が夫婦を演じる『スパイの妻』でしょう。日米開戦を目前に控えた1940年の神戸を舞台に、夫が満州から持ち帰った“秘密”をめぐって、妻が疑いの目を向けます。
夫との愛を貫くか? 国家への忠誠を貫くか? そして国家を揺るがす恐るべき“秘密”とは? 妻と幼なじみの青年を演じる憲兵分隊長(東出昌大)との三角関係も交錯する一級のサスペンス・メロドラマになっています。
この作品には〈映画〉が大きく関わってきます。当時のホームビデオにあたる9.5mmのフィルムカメラで高橋一生が蒼井優主演で自主映画を撮るという遊び心あふれたシーンもあるのですが、そのカメラが、“秘密”をめぐって重要な役割りを果たします。
個人で映像を記録できるようになったことで、たった1人でも国家を相手に戦うことができるようになった時代。それは携帯で動画を撮影し、SNSで拡散できるようになった現代と重ねて見ることもできるでしょう。
何と言っても素晴らしいのが、高橋一生と蒼井優の演技です。当時の喋り方を再現することに現代の俳優は苦労するといいます。 ゆりやんレトリィバァのネタにもありますが、昔の日本映画に出てくる俳優の喋り方に似せようとすると、申し訳ないのですが失笑ものの演技になってしまうことも少なくありません。
ところが高橋一生と蒼井優は、洗練された身のこなしと喋り方を、自分の演技として取り入れて成立させているのです。
こうした面も含めて劇中のセリフを引用するなら、「お見事!」と言いたなる場面に満ちた、歴史の闇と夫婦の愛が交錯する一大叙事詩になっています。